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Chapter.9 疑惑
(知らされたタイヤ事実に愕然 しかしさらなる進化への切っ掛けになった)

image1  3月後半の気候はまだ冬から抜け出していないためか、マイスターカップの開幕戦は冷たい空気が筑波サーキットを覆っていた。素手で触れた路面はヒンヤリと冷たく、コースレコードの更新が期待できるコンディションであることを誰もが実感していた。
 いつものことだが、開幕戦のパドックは恒例のようにライバルの情報が飛び交う場面だ。話しの多くはラップタイムだが、シリーズの展開を占うえで良い情報にもなる。その一例を紹介すれば、位高選手(ジネッタG12)が記録した58秒台、さらに大山選手(アートセブン)もそれに続き昨年を上回るポテンシャルアップを果たしたという。そんな話題がパドックを賑わしていた。
 水面下でポテンシャルを高めていたライバルの噂は、少なからず動揺を誘っう話題だった。もっとも動揺といってもライバルが更新したタイムに対して焦ったわけではない。47GTのポテンシャルは現代のGTマシンにさえもリードを許さない最強のレベルにまで達している。ドライビングにしろ47GTのモンスターパワーに弄ばれず、むしろ思い通りに操れる域に成長している。問題は、やはりタイヤだ。装着するアドバン製スリックタイヤとの相性に不安を抱かせていたのである。
 覚えていると思うが、昨年レギュレーションの変更によってその装着が余儀なくされた47GTは、走り性能に思わしくはない影響を受けてしまった。それまでエイボンタイヤで完成度を煮詰めてきたシャーシに対してバランスが悪く、コーナーにおける特性が強いアンダー傾向に一転。ラップタイムも59秒台から1分台に後退してしまい、ライバルに詰め寄られる結果のまま昨年のマイスターカップを終えている。

 もちろん今年のレギュレーションに、タイヤの変更を促す記述はない。昨年と変わらず、47GTにとってベストサイズが用意されていないアドバン製スリクックがコントロールタイヤとして定められている。エイボン製スリックであれば、タイヤ本体の重量がそれよりも軽くコンパウンドも数種類が用意され、サイズ的にもベストサイズが存在する。すべてに対して理想的な条件が揃うが、その装着が許されないとなれば、レース展開は決して生易しいものではない。とにかくベストを尽くすしかないのだ。
 がしかし、タイヤのコンディションは昨年以上に思わしくなかった。予選のタイムアタックで気付くことになったが、タイヤの発熱が著しく遅く十分なグリップを得ることができない。これまではアンダーステアに一転したハンドリングが最大の問題点だったが、今回はグリップ性能そのものに悩まされることになった。なにしろコースイン後に3周を経過してもタイヤの発熱が悪く、それどころか5、6ラップに周回が達してもグリップは不十分な状態のまま。コーナーというコーナーではパワースライドに弄ばれ、思い通りのタイムアタックが行えないまま時間が過ぎた。
 できる範囲でベストを尽くしたが、予選の結果は1分1秒???。47GTが過去にマークしたベストタイムよりも2秒は遅い記録にとどまり、不本意としかいいようのない4番グリッドに終わった。

image2  パドックに戻り直ぐさま向かった先は、もちろんタイヤの確認である。いつになく浮かない顔を見せる心境をさっしてか、チーム監督である斉藤氏をはじめチームスタッフ全員がタイヤの周囲に集まった。肝心のタイヤは見たところ異常はなく、トレッドの減り具合も適切で空気圧にも問題がない。それゆえに言葉をあまり口に出さずタイヤを見つめるスタッフの気持ちは僕と同様だったと思うが、ふに落ちない結果にただ愕然とするしかなかった。
 とはいえグリップが充分ではないその理由を知るまでに、それほど時間はかからなかった。この日、横浜タイヤのレース部門に所属するエンジニアが視察に訪れており、氏が肩を落としていた我がチームに問題解決の糸口を提供してくれたのである。とはいえその内容は、またしても身体の力を奪い取るような事実も含まれていた。
 それは47GTに装着していたアドバン製スリックは、真夏のレースで使用する“ハードコンパウンド・タイプ”という事実。文字どおり路面温度がビンビンに向上したときでも熱ダレが少ないコンパウンドのタイヤである。それを冬場のレースで履いていたとなれば、当然タイヤの発熱が遅いのも当然ということである。もちろんソフトコンパウンドを選べば解決する話だが、47GTが装着できるこのサイズはF3000(今でいうフォーミュラ・ニッポン)用であり、現在は需要が少ないためハードコンパウンドの一種類しか生産していないという。そうとは知らず、タイヤメーカーに薦められるまま、このハードコンパウンドを履いていたわけだ。
 47GTよりもタイヤサイズの小さい他のマシンは、同じくアドバン製スリックを装着するがコンパウンドは3タイプが選択可能になっている。そのタイヤは、かつてのグラチャンマシンに形状が似たRSという現役マシン用のスリックのため需要があることから、ソウト、ミディアムの2種類のコンパウンドが揃っている。路面温度によってコンパウンドを選べれば、レースでは有利だ。今回の予選では、ほとんどがソフトコンパウンドをチョイスしていたため、計測が始まった直後から全開アタックに入っていたほどである。

image3  とはいえハンディを背負いつつも、決勝レースを戦い抜くしかない。そこで、作戦のひとつに選んだのは積極的なタイヤの暖気だ。タイヤが充分なグリップを発揮するまで他のマシンよりも多く周回数を重ねなければならないため、スタート前のフォーメーションラップではとにかくタイヤの暖気に務めることにした。よくあるテレビのレースシーンではマシンを蛇行させタイヤの発熱を狙っているが、ハードコンパウンド相手にその方法じゃ通用しない。ペナルティを受けない限界までマシンを振り回すことが得策。コーナーではパワースライドを繰り返し、ストレートでも激しくホイールスピンを積極的に行いタイヤをとにかく暖める。
 「作戦は正解だった」、そう実感したのはスタート直後の1周目。充分とはいえないが、予想以上にグリップは高まっていた。
 前を先行して走るアートセブン、ジネッタG12はソフトコンパウンドを履くが、そのライバルに大幅なリードを許すこともない。タイヤのグリップも1周ごとに高くなっている。そして3周目。リアタイヤのグリップが頂点に達した印象を抱いたとき、1分00秒台にラップタイムは跳ね上がる。予選の時よりも、グリップの立ち上がりが確実に速い。トップの2台は激しいバトルを続けラップタイムを落とていたため、その差もわずかだが削りとれたように目には映った。
 レース展開が一転したのはその直後。接近戦を展開していたアートセブン、ジネッタG12のトップ2台が最終コーナーの進入で接触してコースアウトしたのである。コースサイドからは砂煙が舞い上がり、後方からクルドライバーの視界を一瞬にして閉ざした。「まてよ、これでトップか!」。本来なら実力で先頭に立ちたいところだったが、棚から餅が落ちる幸運が訪れた。戦列を離れた2台を横目で見送り、あとはスパートをかける。
 しかしハードコンパウンドの性能を限界まで引き出したところで、他のライバルが装着するソフトタイプには歯が立たない。いくら1分00秒のタイムを叩き出しても、ライバルはさらに上回ったラップで迫ってくる。10周を経過した時点で、スタート直後にコースアウトしたアートセブンがコース復帰後に猛烈な追い上げをみせたのか、気付けば直ぐ後方まで迫っていたほどだ。それほど、タイヤの性能というのはマシンのポテンシャルを左右するということである。

image4  決勝レースはどおにか2位をキープすることができたが、もちろん納得はしていない。装着していたタイヤの事実が判明した以上、次に打つ手はなくはない。たとえば冬場にハードコンパウンドを装着するくらいなら、まだサイズの小さいソフトタイプを履いたほうがグリップする。つまり、とにかくソフトコンパウンドを履くことを大前提に、この際、セッティングの大幅変更を行うしかない。まして我がチームには、ここまで47GTを熟成させたセッティング技術がある。それを武器に、さらなるポテンシャルアップを約束しよう。きっと次のレースでは、47GTの進化を堪能することができるだろう。

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