タイヤがクルマの運動性能に大きな関わりを持つことは、誰もが承知だと思う。加速やブレーキ、そしてコーナーリングといったクルマの3大運動は、路面との唯一の接点であるタイヤが最終的に行っている。そのため、たとえばタイヤを変更することは、その特性しだいでマシン本来のポテンシャルが引き出せなくなることも考えられる。
マイスタープロ第2戦は、まさにそうした不安が先に立った。というのも、今回のレースではレギュレーションに定められるアドバン製スリックタイヤを装着することになったからである。これまのでエイボン製スリックタイヤでセッティングを煮詰めてきた47GTのサスペンションに、どのような相性を見せるのかが予測が立たず、ただ悪い方向にハンドリングが変化しないことをドライバーとしては期待するしかなかった。
もっともレース前にテストを行いセッティングを見直せば済む話しだが、今回はそうもいかなかった。理由はやはりタイヤだ。アドバン製スリックのラインナップには47GTのリアに合うサイズが存在せず、より幅広いタイプしかなかったことから、ホイールを新たに造り直しリアフェンダーも広げなくてはならないという大がかりな作業になった。もちろん時間はかなり必要とされ、第1戦に間に合わずこの第2戦まで伸びたほどだ。したがってテストを行う暇などなく、結局その答えを本番で確かめることになったわけである。
しかしながら47GTのシャシー性能は完成された領域にある。もしも完成されていないマシンであればドライバーの手を焼くコントロール性になりかねないだろうが、その心配は一切感じていなかった。タイヤの特性がどうであれ、そこそこのラップタイムをたたき出せる確信を持っていた。それを裏付けるかのように、予選タイムは1分00秒768という記録。
確かに前回から1秒は遅くなっているが、セッティングを見直さずにこのタイムが出せるのは、やはり次元の高いシャシーの効果だ。
とはいえ、予選のアタックは優しくなかった。より幅広くなったリアタイヤのグリップは高く、ステア特性がアンダーステアー傾向に変化していたからである。いつもであれば全開で駆け抜けられる80Rもパーシャルスロットルで我慢する必要があり、他のコーナーにおいても立ち上がりでアクセルを積極的に踏むことが出来ない状態だ。そのため、今回はドライビングそのものも変えなければならなかった。コーナーへの進入スピードを下げ、とにかく立ち上がりでアクセルをがんがん踏めるようなライン取りにつとめた。そのことで、1分00秒768のタイムを出し3番手をどうにかキープできたわけである。
しかし、この走りが通用するのは予選だけだ。コーナーへの進入スピードを下げるため、4番手に控えたアート23無限を走らせる武蔵野選手に入り口で抜かれる可能性がある。さらに47GTに対して1秒も速い予選タイムを記録するトップグループを抜くことはかなり難しい話しである。そのため決勝レース前に思い切ってセッティング変更を決意。狙い通りにステア特性を修正できるか確信は持てなかったが、車高やスタビライザーの設定を変え、可能な限りアンダーを消し去る方法を取った。つまり、ギャンブルである。
決勝レースは、スタートが上手く決まった。3番手のスターティンググリッドからは、目の前にポールポジションのベックマルカツポルシェ、左斜め前方に2番手のアートセブンが並ぶが、その中央の隙間に運良く飛び込めた。しかし、気分がいいのはそこまで。2車の加速は速く1コーナーまでに再び先行され、さらにそのバトルの間に、イン側からアート23無限と、MZセブンにまでパスされてしまう。結局オープニングラップは5番手まで後退してしまった。
とはいえ焦る必要はなかった。先行する4台のマシンは、団子状態の接近したバトルを行い、どれか1台のマシンが飛び出せる状況じゃなかった。トップを行くマルカツポルシェもペースが上げられないでいる。しかも、47GTについては例のギャンブルが成功していた。以前の軽快なハンドリングとまでは行かずアンダーは強いモノの、その特性が軽減されていたためラップタイムもコンマ4秒ほど向上。バトルに充分に挑める状態だった。
それだけに前車をパスすることも難しくはない。3週目にアート23無限、6週目にMZセブンを抜き、10週目にはアートセブンをパスして2番手に浮上。しかしその時には、ベックマルカツポルシェは独走態勢に入っており約6秒先を走行。最終的に4秒差まで追い上げられたが、惜しくもトップの座を譲ることになった。1位のベックのラップタイムは1’00.366、2位のHAPPY 47GTは1’00.455の記録が残された。
レースは2番手に止まったが、今回の最終戦はいつになく満足感は高かった。終始白熱したバトルが展開されたこともあり、見る者もドライバーも実に盛り上がったに違いない。これこそレースといえる展開だった。47GTが本調子ではないことを知る観客がどれほどいたか分からないが、順位を挙げていくその姿は印象にもきっと残ったことだろう。そして、逆にハンディを背負っていることを理解している人に対しては、ハッピー47GTの基本性能の高さを再確認していただけたことと思う。