Chapter.10 |
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進化の片鱗 (進化した47GTの走りは、見る者に興奮を与える完成度を示す) |
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5月5日。この日に開催されたマイスターカップの第2戦は、チームの誰もが期待に心を踊らせていた。もちろんドライバーである自分としても、いつになく激しい鼓動を感じずにはいられなかった。
それは無理のないことでもある。この日の47GTは、内容がこれまでとは違う。サイズがひとまわり小さくなったスリックタイヤや空力を制御するリアウイングなど、エクステリアを一見しても理解できるようにさらなる進化を遂げている。その進化のレベルを知るスタッフにとって、さすがに冷静になることはできなかった。
なぜマシンの改良にいたったか? その切っ掛けは前回の開幕戦にあった。47GTにベストサイズとしてメーカーから薦められたスリックを履き予選に挑んだところ、ライバルのタイヤよりも発熱が著しく遅いことが発覚。聞けばそのスリックは夏用のハードコンパウンドであり、しかも需要の少ないサイズという理由で他にコンパウンドが用意されていないことを知った。もちろん路面温度に対応できなければレースにならない。そこでライバルと同じように、ソフト、ミディアム、ハードのコンパウンドが用意されるスリックを履く改良に踏み切ったわけである。
結果を急げば、冒頭で伝えた通りその改良は47GTに進化をもたらした。採用したアドバン製のスリックは、フォーミュラーであるF4用のソフトコンパウンド・タイプであり、ライバルであるジネッタやセブンも履く同様のモデル。だが、これが予想以上にグリップレベルが高い。サイズはこれまで装着していたものより小さいものの、47GTのモンスター性能を確実に受けとめてしまうポテンシャルを発揮する。それを裏付けるかのようにレース前に行ったテストランでは、単純にそのスリックに履き替えただけで2秒近く時計を短縮させたほどである。
進化はこれだけではない。タイヤ変更とともに行った各部の改良が、実は今回の特筆したいところでもある。すでに想像がつくと思うが、リアフードに設置されたウイングもそのひとつだ。
知っての通りミッドシップのマシンはリア荷重が生命線だ。不足していればコーナー進入時は挙動が乱れ、立ち上がりでは十分なトラクションが稼げなくなるデメリットを伴う。そこでリアの荷重をより稼ぐアレンジがこのウイングの役目だが、実際のところその採用で速さに磨きがかかった。とくに効果が大きいのは高速コーナーを立ち上がる場面であり、数段強力なトラクションが発揮されている。ちなみにウイングを取り外した際は激しくテールが暴れ出し「じゃじゃ馬」的に性格を変えるだけに、その効果に疑いはない。
サスペンションのセッティングにおいてもさらなる熟成を図った。とくに重点を置いた部分はフロントの旋回力を向上させること。リア荷重が増した分、フロントの接地状態とのバランスを図る必要があるためだ。そこでアライメントの見直しやスタビライザーの調整、さらにダンパーの減衰力など大幅に変更を施す。その効果はとくにヘアピンなどのタイトコーナーにおいて、ハンドリングがニュートラル方向へ移行した結果を生んだ。
また今回は夏場のレースに備え冷却効率の見直しも行った。そもそも冷却効率が悪いわけじゃないため、さらなる余裕を確保する意味での改良と思ってもいい。具体的にはこれまでフロントのタイヤハウスに逃がしていたラジエターの熱風を、ボンネットの上に放出する構造に変更。これによってタイヤの余分な発熱を防ぐとともに、ボディまわりの空気の気流を整えることを狙った。
ざっと紹介したが、今回の改良が47GTを大幅に進化させたことは容易に理解できるだろう。ましてテストランの最終段階では、過去のベストラップを上回る58秒???を記録するまでにポテンシャルが上り詰めた。企みが順調に進み、理想的な結果に辿り着いたのである。つまり、だからこそこの日の我がチームは、いつになく期待を高めレースに挑んでいたわけである。
そこで迎えた予選は当然のごとくポールポジション狙い。しかもフレッシュタイヤ(新品タイヤ)によるタイムアタックのため、最高のグリップを引き出しつつコースレコードである57秒を狙える条件下でもあった。しかし、レースには思わぬ落とし穴がある。今回はまさにその穴に直面した。というのも、予選中にデスビのローターが折れるといったトラブルに見舞われてしまったのである。
規定周回数をクリアーできずに終了した予選は、最後尾グリッドからのスタートになる。でも実をいうと、その結果は逆によかった。最後尾スタートという試練がレースをドラマチックな展開に演出することになるとは、想像もつかなかったからである。レース後に耳にした話だが、場内アナウンスや観客、他のチームまでもが47GTの猛烈な追い上げに注目していたという。ドライバーの心境としては目の前に迫る他のライバルを夢中で追い掛けていただけだが、場内は異常なほど興奮していたらしいのだ。
確かにその状況は、少なからず理解はできる。なにしろ47GTの走りは、完壁にライバルを凌ぐポテンシャルを見せつけていた。スタート後の1コーナーまでに前を行くライバルを一気に抜き去り、グランドスタンド前に戻った際には大幅に順位をアップ。7周目に入る頃には上位グループの背後にまで追い上げ、4番手争いを展開する強烈なスパートを演出した。30台近くのマシンをあっさりパスするその走りは、レースを見守る者の目を釘付けにするだけの要素があったといって過言ではない。
さらにレースの後半になっても、安定したラップタイムを叩き出せる高い完成度も見事というしかない。冷却効率の対策が結果としてあらわれたのだが、フロントタイヤの熱ダレが以前に比べ減少していることから、つねに最高のポテンシャルを引き出せる戦闘力がある。ゴールまであと3周に迫った13周目でも59秒00のタイムを記録できたことが、そのなによりの証拠だ。さすがにスタートから独走体制を築いていたアートセブンには追いつけなかったが、それでもゴール時点で8秒差まで詰め寄ることができたのは、その安定した走り性能の恩恵といえるだろう。
その完成された走り性能はテクニカルショップHAPPYの優れた実力の証であることを忘れないでほしい。1回だけのテストランでここまでマシンを完成させた我がチームクルーは、まさしく僕にとっても誇りである。レース結果は2位に終わったが、少しも悔いの残らない戦いだった。 |
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