HAPPY CARSABOUT "HAPPY"INFORMATIONPRODUCTSFOR SALECOLUMNLINKSTOP


COLUMN
BACK CONTENTS

Chapter.26 〜未来への予感〜
白熱したバトルに観客の多くが息を飲む!

 11月5日、筑波サーキットではシーズンの終わりをつげるレースイベントが分刻みに進行していた。2006年エリーゼスパーテックもこの日が最終戦となり、1年間の戦いに膜をおろす。11月の気温としては意外にも過ごしやすい晴れ日であったが、タイムアタックの条件には悪くない、記録更新のドラマが毎年演じられてきた最終戦に相応しいコンディションとなった。
 HAPPYエリーゼのこれまでの自己ベストは、2005年にマークした59秒82。昨年の最終戦に目標であった1分切りを果たしている。今年はその自己ベスト更新を狙いつつシーズンを戦ってきたが、ここまで良い結果を出すことができずにいる。それだけに、この最終戦を迎えるにあたっては、充分な準備をおこないマシンポンシャルもこれまで以上に高め挑むこととなった。
 マシンにまず手を加えた箇所は、以前から課題にしていたLSDのセッティング変更。これまでのセッティングは、LSDが作動を始めるタイミングが速すぎ、イニシャル(効きの強さ)も過大だったため、とくにコーナーの立ち上り加速でトラクションが逃げ過ぎる傾向にあった。アクセルを踏み込んだ瞬間にLSDがきき始めることから、クリップからの立ち上りでは容易にリアスライドを発生させる状態であり、タイムアップにはもっと強い加速を可能にするセッティングが必要となっていた。そこで今回こころんだ手段は、LSDのきき始めを少し遅らせること。さらにイニシャルもいくぶん弱めるセッティングの最適化を行ったわけだ。
 このLSDのセッティングは、かなり的を得た変更となった。予想したとおりコーナー立ち上りでは、アクセル開度をより大きくできる。しかも、これまでシビアだったアクセルコントロールにも余裕が増したことも効果のひとつとして挙げられ、さらに大きなメリットは、高速コーナーの加速シーンにおいてクルマの姿勢に一段と安定性が得られていること。たとえば、最終コーナーからホームストレートに向かうリスクの大きいシーンで、そうした安定性を得られたことは、レース中にいざバトルを挑まれたときでも大きな武器と変わる要素。それだけに、LSDのセッティング変更は、大きなメリットにつながったといえるのだ。
 また、フロントアンダーパネルに細工をおこなったことも今回の変更点のひとつ。写真で紹介できれば話しは速いが、その細工とは、アンダーパネルの左右方向にUの字型の凹みを加工するという内容。ようするに空力のアレンジである。Uの字型の凹みに空気を通すことで、床下に流れる空気は流速が速まり、いわゆる揚力(クルマをリフトさせる力)をおさえる効果がある。フロント側のリフト量を減らし前輪の荷重をより稼ごうということが、このアンダーパネル採用の理由である。
 とくにエリーゼは、フロント荷重をどれだけ得られるかが走りに影響しやすい。そこで、以前からこの採用を計画を水面下で進めていた。知ってのことだろうが、エリーゼのシャーシ設計はリアスタビリティが高い造りになっている。コーナーの進入時などではリア荷重を多くは移動させない傾向だ。言い換えればフロントに荷重が充分に移動してくれない設計のため、コーナーの進入ではブレーキングを残し気味にするなどの小細工を行なわずにいると、フロントタイヤがしっかりグリップを発揮してくれない傾向にある。したがって新たに追加したアンダーパネルはメリットが少なくない。たとえば1ヘアピンのような低速域でもフロントタイヤのグリップ感を高めているほど。最終コーナーといった高速域においても、グリップ限界を向上しているメリットが得られているほどだ。
 最終戦に向けた準備は、このようにデリケートな部分にまでメスを入れる職人ならではのセッティングとなったが、肝心の自己ベストタイムの更新は完全な失敗に終わってしまった。ようするに予選を戦略的に進められなかったということ。たとえば、ハッピーエリーゼで予選のタイムアタックをする場合、もっとも高いポテンシャルが発揮されるのはコースイン後の5周目あたり。他のレーシングカーであれば3周目がタイヤの内圧も高まりアタックに入れるのだが、多くのエリーゼがそうであるように、フロントタイヤの発熱が遅いことから5周目がベストコンディションになるわけだ。しかし、エントリー台数が毎戦25台を数えるこのレースでは、ちょっとしたタイミングのズレから5周目にクリアラップを逃してしまうこともある。そう、最終戦ではその恐れていたパターンに、まんまと陥ったというわけだ。
 結果、予選アタックで記録したタイムは、自己ベストからコンマ5秒遅れの1分00秒481。順位ではポールポジションにあたるが、我がチームの目標である記録更新は、苦しくも来年度に持ち越しとなってしまった。
 しかしながら、捨てる神もいればチームを盛り上げる追い風の神もいるもの。決勝ではチーム関係者の淀んでいた空気も吹き飛ばす展開が待っていた。現地へ応援に来ていただいた人には説明するまでもないが、イメージとしては以前に参戦していたマイスターカップの熾烈なバトルに迫る。エリーゼスーパーテックに参戦をはじめて依頼、これまでバトルと呼べるシーンがなかったことから応援に駆け付けた観客にとっても、それこそドライバーである僕自身としてもいささか熱くなれない状況が続いていた。が、この最終戦の決勝についてはまさに別モノ。サーキット全体をわかせる展開となった。
 決勝は、最後尾グリッドからのスタンディングスタート。賞典外の役所で参加しているHAPPYエリーゼは、今回より予選タイムに問わず最後尾スタートとなったが、実はこのルールがガッツリと見所のあるレース展開を造り出したのである。HAPPYエリーゼのグリッドから、トップ車両までの台数は22台。ゴールまでに何台の車両をパスできるか? 関係者の多くが期待していた。
 むかえたスタートは、がむしゃらに前車のオーバーテイクには出なかった。チョイスしたタイヤが熱タレを起こしがちのソフトコンパウンドだった理由もあるが、さすがに22台もの車両が1コーナーに流れ込むシーンのためクラッシュの可能性が考えられる。安全パイをとり無理を避けたわけだが、実際に予想は的中し、スタート直後 > の1コーナーでは1台のマシンがスピン。多くの後続車が間一髪で避けていく状況となった!
 猛チャージを開始したのは2周目以降。このレースに参戦するドライバーは誰もが技量が高く、後方より追い上げるHAPPYエリーゼをちゃんと目視していることから、安心してフルフラットのパッシングを行なえる状況がつづいた。その甲斐もあって、7周目には3番手を走るマシンをパス。10周目あたりには、ついにトップ車両の後方にまで追いつく快走ぶりをHAPPYエリーゼは演じてみせた。
 ゴールまで残り5周。果たしてトップを奪えるのか? そのまま逃げ切ってみせるのか?
 観客の多くが、その行く末を見守っていたのは確かだった。というのもトップを走るマシンは、それほど容易にパスできるような性能ではない。その相手とは、S2Exige。スーパーチャーヂャを武器に、最高出力○○馬力を絞り出すポテンシャルを誇る。それだけにHAPPYエリーゼだからといっても、エンジンパワーにモノを言わせて簡単にパッシングできる相手ではない。たとえば、ストレートの加速を見てもほぼ互角。手前のコーナーを無駄なく立ち上がらなければ、ストレートで並べないほどのマシンだった。しかも、ドライバーは筑波サーキットを走り慣れており、コーナーの進入では徹底してイン側ラインを空けることはないブロック戦法。そのシーンが3周ほど続いたことから、トップ獲得はそう容易な話しではない状況に、はたからは見て取れたに違いない。
 しかしながら、ステアリングを握る僕自身は決してはやることなく、むしろ冷静だった。
 別にカッコをつけているわけではなく、すでに相手の弱みを見つけ出していたからである。ライバルのS2Exigeが装着するタイヤは熱ダレに有利なミディアムコンパウンドだったが、そのコンディションは、すでにHAPPYエリーゼが真後ろに追いついた10周あたりの時点でグリップダウンがみられ、リアスライドを大きく発生させている状態だった。おそらくスーパーチャーヂャエンジンのハイパワーに、タイヤが悲鳴をあげたのだろう。
 そうした状況下で僕がくだした作戦は、プレッシャー戦法。相手のグリップがもっと落ち込むよう、コーナーごとにパッシングを仕掛ける演技を繰り返すこと。インサイドもしくはアウトサイドといったように、コーナー進入で並びかけることで、相手のタイヤライフを奪っていく戦法である。もっとも、HAPPYエリーゼのLSDをインシャル変更していなければその余裕はなかったかもしれないが、その効果あってタイヤのライフには余裕をみせていたことが幸いした。そして、ゴールまで2周を残した最終コーナーの飛び込みで、ついにトップを奪うことに成功。ドライバーとしては、意外に長い15周の決勝レースとなった。
 ともあれ、1年の終わりを感動のレースで終えられたことは嬉しいが、正直なところ、そうそう胡座をかいていられない環境であることが理解できた一戦でもあった。予選をみれば、上位陣のタイムは軒並み速くなっている事実もそうだが、前述のS2Exigeのポテンシャルを背後で観察したかぎり、過給機の特権を利用して速さにより磨きがかかる予感もなくはない。2007年のエリーゼスパーテックには、白熱したバトルシーンがきっと増えることだろう。とはいえ、熟成が進んだHAPPYエリーゼにライバルが立ち向かうには、かなり強固な壁となるに違いない。数値的にる自己ベストは更新していないものの、体感できるポテンシャルは現時点でも確実に以前を上回っている。その事実をタイムに残せなかったが、ここは気分を切り替え、来年の楽しみとして残しておきたく思う。

BACK CONTENTS




HAPPY CARS I ABOUT "HAPPY" I INFORMATION I PRODUCTS I FOR SALE I COLUMN I LINKS I TOP