Chapter.25 |
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〜甘い罠〜 最速ねらいのサスセッティングがウエット路面で思わぬ誤算として壁となった |
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5月の末、エリーゼ・スーパーテック第2戦が、いつもの筑波サーキットのコース2000で開催された。今シーズンは天候に恵まれないようで、当日は折から激しい雨模様に見回れ、どんよりと薄暗い空気がパドックを覆っていた。しかも、雨は量的にもかなりのドシャブリ。他のレースプログラムを走るプロドライバーも二の足を踏んだほど、あたり一面に大きな水たまりができる状況だった。もちろん、自己ベスト更新を狙いこれまでドライ・セッティングに励んできた我々にとっては、予選をウエットで走ることは、まるでありがたくない状況といえるものだった。
なにしろ、レース前の事前テストでは好感触をつかんでいたからだ。というのも、サスペンションのセッティング変更が良い方向性を示していたのだ。そのセッティングとは、ミディアムコンパウンドのタイヤとマッチングを図る変更。これまでソフトコンパウンド装着をベースに仕上げられた足回りだったことから、ワンランク柔らかいバネレートを採用することで、ロール量のバランスを図り早さに磨きをかける狙いだ。これにより、エリーゼはフロントタイヤがそもそも温まりにくいが、今回のセッティングでは充分な発熱をみせた他に、コーナーではフロントの応答性に軽快さを増すなど、ハンドリング面の成長が大幅に確認できたのである。
具体的には1コーナーやヘアピンといったタイトなコーナーで、リアに対するフロントのグリップがより高くなった感触もあり、アンダーが顔をだす領域が遅くなったメリットが得られているほど。ターンインの場面においても、これまでより速いスピードで進入することが可能になっている。それでいて、80Rや最終コーナーといった高速域でのコントロール性も高まっているのも今回の成果。とくに最終コーナーではクリッピングの手前で、出口に向けクルマの角度を直線的に整えるため、軽くリアスライドを意図的に発生させているが、このセッティングは、そうした正確性が必要とされる小ワザも一段とラクに行なえる。クリッピング付近のフルロールが起きる場面でも安定感がより向上しているなど、実にコントローラブルな特性がこのテストでは得られたわけだ。使い古しのミディアムコンパウンドを履きつつも、1分00秒325のタイムを連発できるというのも、その成長ぶりを裏付ける数字だろう。
ただ、セッティングの変更が裏目になった部分も実はある。それはLSDのイニシャル。ミディアムコンパウンドを基準にサスペンションのセットアップを進めてみたものの、ソフトコンパウンドとバランスを図ったLSDでは効き味が強めなことから、アクセル操作にシビアさが求められるようになってしまった。たとえば、コーナーの出口に向け加速をするシーンでは、それほど多くないアクセル操作量でもリアタイヤのグリップが奪われやすく、強力なトラクションがかけられないシーンも少なくない。
最終コーナーやヘアピンの出口にしろアクセルの踏み込み量が控えめになってしまうため、LSDがベストな内容ならと想像すると、さらにベストな走りが期待できるに違いない。
ともあれ、LSDには欲をかきたい部分を隠せないが、ただ、それを差し引いたとしても今回のセッティングの変更は、コーナーでの旋回スピードの向上、そしてコントロール性の進化といったように、充分なメリットが得られている。それだけに、予選をウエットで走らねばならないことは、チームのモチベーションを下げた原因となっていたのだ。
しかも、そのウエットコンディションの影響で、我がチームは思いもよらない結果へと導かれることになるとは...。実をいうと、これまでにない苦戦を、今回の予選では余儀なくされたのだ!
というのも、最速エリーゼを追求する上でドライ路面に照準を合わせ、サスペンション・セッティングを進めていたことが裏目に出たわけだ。ウエットコンディションが、HAPPYエリーゼのウイークポイントになっていたのだ。つまり、その事実に直面したということ。スプリングのレート、ダンパーの減衰といった設定は、すべてがドライコンディションで威力を発揮するためのセッティング。ロールを嫌う硬めのセッティングだけに、正直、ウエットコンディションはあまり考慮していない。いわゆるドライコンディションにおける限界性能を追求した、かつかつの仕様ということ。そのことが雨の予選で、マイナス方向へとベクトルがあらわれたわけだ。
予選のコースインは、変わらぬドシャブリ。コース上にはいたるところに雨による川も流れていたが、その最悪のコンディションのなかやっかいとなったのは、ハイドロプレーンに足を取られる一般的なものではなく、タイヤの発熱が著しく遅いという嬉しくない障害だった。硬めのサスペンションは荷重の移動を充分に行なえず、なかなかタイヤの発熱を誘うことができない状況だった。なにしろ予選の15分間を休まずに走り続けてみたものの、それでもタイヤはアタックできるグリップレベルにいたらないほど。たとえば、ステアリングをごく丁寧に切り込んでもフロントタイヤはあっけなく滑りだす状況で、リアタイヤもいとも簡単にスライドを行なう始末。ひとこと、ヤバイ状況である。そんな一瞬にしてコントロールを奪われかねない状況が、15分間も続いてしまうのだ。本来なら10分も走り続ければそれなりに発熱がおきグリップも出でくるものだが、現状のサスペンションのセットは、そうはならないことが予選本番でわかったのである。それゆえに、予選結果はあまり多くは語りたくないポジションに終わった...。
ただし、決勝は挽回の舞台だった。スタートの頃にはドシャブリの雨もやみ、コースはドライコンディションへと一転。ポールポジョンを逃した状態からのスタートとなったが、ミディアムコンパウンドに合わせたセッティングはより攻撃的なドライビングを可能にしていたことから、1周をカウントしたときには早々と戦列のトップへ。
しかも、3周目にはミディアムコンパウンドの自己ベスト更新となる1分00秒145をマーク。決勝はHAPPYエリーゼらしい、他を寄せ付けない圧勝の展開が築け、ポテンシャルの高さを披露することになった。
とはいえ、ゴールたものの頭に残るのは予選でのポテンシャルの不十分さ。ウエットコンディションで本来のポテンシャルを出し切れないというのは不本意そのもの。おそらくソフトコンパウンドのタイヤを装着してさえいれば後悔はなかっただろうが、ただその手法は付け焼き刃的なものだけに、HAPPYエリーゼとしてはらしくない。やはり、ウエットコンディションでも最速をキープできる本格的な雨セッティング!それもひとつの武器として備えていることが、最速を誇れる条件ともなるだろう。限界性能を求めドライセッティングを施してきただけに今回はいたしかたないことでもあるが、しゃくぜんとしない消化不良的な気分が残るだけに、この課題は必ずクリアしなければならないだろう。すでにその目標達成に向け、僕のモチベーションは高まっている。その切っ掛けともなったこの日は、いい意味で勉強になった一戦である。
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