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Chapter.17 〜勝利の継承〜
鮮明に記憶される特別な瞬間 そんなレースを47GTと演じたい

 2002年5月5日。限界性能を追求する47GTのチャレンジが今年も幕を開けた。
 マレーシアGPの海外遠征により第1戦を欠場することになった我がチームにとって、この第2戦は今シーズンの開幕ともいえる一戦。通常の開幕戦であれば、マシンの仕上りはイコールでの戦いだが、他チームに対してシーズンインが出遅れた47GTとしては、最高のマシン・コンディションで挑まないと苦い涙を味わいかねない、そんなスタートといっていい。
 とはいえ個人的な意見としては、気分は上々だった。なにしろ、僕としてはマレーシアのレースにおいて自信を高めてきたばかり。戦い舞台となったセパン・インターナショナルは、超ハイスピードのブラインドコーナーが連続する世界有数のテクニカル・サーキット。アップダウンの激しい高速S字を奥歯かみしめ駆け抜けるシーンもあれば、5速フルスロットルで飛び込むブラインドコーナーもあるなど、その5・5kmのコースレイアウトは過酷のひとこと。その超ハイスピード・テクニカルコースで、世界の有力ドライバーが顔をそろえるなか、フォーミュラレースの表彰台の一角をシャーシャーと獲得してしまえば、いやおうなしに自信も高まるというもの。
 もちろん個人的な勝手理論、「エロイ心意気は勝利を導く」に対しても、その海外遠征では磨きをかけてきた。つまり、勝利心を向上させるテストステロン!
 これについては前回のコラムで効果のほどを報告したとおりだが、遠征の地では、そのテストステロンの向上が果たしやすかった。理由のひとつは、マレーシア流マッサージ。依頼した業者が悪かったのか(結果的には良かったんだけれど)、マッサージの内容がまるでヘルス並み。きわどい部分までマッサージの指先が攻めはじめ、最終的には性的な行動に・・・。これ以上の説明は人格保持のため割愛するが、テストステロンの向上も完璧だった。
 すなわち、今回のマイスターカップはいつも以上にポジティブな気分で挑んだのも事実。しかも47GTのポテンシャルが昨年以上に成長していることも、追い風気分に拍車をかけていた。すでに承知と思うが、それは昨年の6月より水面下で進めていた究極の軽量化の完成。ビス1本から徹底した軽量化を行い、ボディはフルカーボンファイバー製にスイッチするという、スーパーダイエットが実現した。これにより削り取られた重量はなんと100kgオーバー。セブンにも迫る徹底した軽量化が完成したのだ。
 もちろんフルカーボンファイバー製となった47GTの走りは、まさに想像以上に成長した加速性能を自慢にしている。レースの数日前に行った事前テストでは、強力化した加速のおかげで多くの場面においてドライバーの余裕を奪い取る過激さをみせるほど。コーナー立ち上がりでは、アクセルONによりいとも簡単にリアがスライドを始めるパワフルさが増し、バックストレートではブレーキングポイントの100m手前でエンジンが吹け切ってしまう激しさだ。そのため今回は、5速ギアをよりハイギヤードすることで、トップスピードをさらに引き上げ、モンスターぶりも増しているのだ。
 おそらく、こうした軽量化によりタイヤへの接地荷重も変化したのか、唯一ハンドリング面には思わしくない影響がでた。それはコーナー進入でアンダーステアが強く、立ち上がりでは逆にオーバーステアに一転するという状況。これまでは進入でこそアンダーステアが見られたものの程度としては控えめで、立ち上がりでも強力なトラクションが稼ぎだせるほどリア・スタビリティが高かった。予想もしていなかったそのハンドリングは、今後のリセッティングポイントとして課題に残ったのである。予選で目指す56秒代をたたき出すには、厄介な存在となったことは言うまでもないだろう。
 まして今回サーキットに集まるライバル達は、ここ数年で実力を高めている強敵ぞろい。なかでも要マークの存在は、ゼッケン19番、ジネッタG12を走らせる位高敬選手。しばらくぶりに参戦した選手だが、彼は過去にマイスターカップで56秒台の最速タイムを残す実力派。現在はフォーミュラ4にシリーズ参戦を行う、いわばセミ・プロ的なドライバーだ。
 プロ予備軍という意味では、ゼッケン11番の中村貴広選手も同様。全国を転戦し開催されるツーリングカーレースで活躍する彼も、昨年のマイスターカップでは、マルゼンセブンを走らせ57秒台をそろそろ切りそうなドライビングを見せていた存在。23Bのステアリングを握るゼッケン23番、武蔵野明彦選手にしろ徐々に技術の成長が見られるだけに、47GTにとっては楽勝ムードではいられない部分もあった。
 しかし、である。前述したとおり、気分はポジティブの頂点だ。47GTもハンドリングを除けば、以前の仕様に対して加速性能はポテンシャルアップが達成している。それだけに予選での結果は、開幕戦としては上出来。強い日射しが照りつけるコンディションだったが、記録したタイムは、これまでの自己ベストをコンマ3秒ほど更新する57秒412。目標とする56秒代まであと一歩といえる数値を、完璧とはいえないサスセッティングの状態で残せたのである。しかもその数字が意味するのは、季節が季節であれば、おそらくは57秒フラット、もしくは56秒代をマークするポテンシャルということ。今後の進化に期待が高まる記録なのだ。
 追い風に乗り切るその47GTの勢いが呼び寄せたのか、決勝を迎えた我がチームは「運」までも味方に付けていた。その瞬間が訪れたのは、決勝のスターティング・グリッド。予選で56秒947のタイムを出してポールポジションを得た、ジネッタG12の位高選手がスターティング・グリッドに姿を見せなかったのである。理由は、エンジントラブル。エンジンが始動せず、ルールによりピットスタートを余儀無くしたのである。もちろん、そんなトラブルは滅多にないこと。稀なその状況に、まさしく「運」を意識するかぎりだった。
 でも、ドライバーとしては「つまらない」というのが正直な気持ちだ。できればジネッタとの真っ向勝負がしたかった。レースではマシンの耐久性&信頼性が勝敗のカギ。ドライバーが限界のバルトを展開して、ゴールまでライバルより速く走り切るのがレースの醍醐味。47GTの実力を知る僕としては、そうしたバトルに勝てる自信があっただけに、少しばかり不完全燃焼なレースだったことは間違いない。
 もっとも、それほど白熱したバトルを願っていたのも、レース当日が特別な日だったことが影響してのことだろう。5月5日、この日は、先代、斉藤正吾氏のバースデイであり、フルカーボン化した47GTの勇姿を披露する特別な日。新社長としての初レースともなる大切なメモリアルデイだった。それだけに予選のタイムにかけるのではなく、決勝において最高のレースを見てもらいたいというのが、ドライバーとして、いやむしろ、ヨーロッパと深く付き合わせてもらった感謝の気持ちだ。それだけに・・・、ということである。
 ともあれ、この第2戦が記憶に残るレースとなったことは嬉しいかぎりだ。ポールポジション・マシンが不在のままスタートが切られた決勝は、まさにブッチギリの圧勝劇。2番手に対して1週目から3車進のリードを広げ、5週目にはストレート1本分の大差をつけ、そのままゴール。47GTの走りは観客を唖然とさせる、そんな内容だった。 今回はそうした無敵の走りを、高野ルイ選手のお嬢様に披露できたことも、僕のレース人生において忘れることのない記憶になるだろう。高野ルイ選手は10年前に他界してしまったが、69年の日本グランプリで氏が実際にステアリングを握っていたこの47GTは、お嬢様にも精悍な姿で記憶されることだろう。
 僕としても、ここ数年でヨーロッパとの思いでは大幅に増えた。「記憶に残る日を、いくつ思い出せるだろうか?」、そんな質問に対して、ヨーロッパと過ごした多くの出来事を口にできる自分は、実に幸せなヤツだと感じている。新しい時代を迎えてもその引き出しは増え続け、これまでの思い出とともに色褪せることのなく記憶されていくことだろう。47GTで戦えることに、ほんとうに感謝の気持ちがつきない。

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