おそらく日本では最大規模といえるヒストリックカーのイベントが、98年9月23日、ツインリンク茂木で行われた。このイベントは「カーマガジン」などの自動車専門誌を多数発行するネコ・パブリッシング主催のもので、当日は世界の名車が全国から集められオーナーズカーの走行会や歴代F1マシンのデモラン、さらに歴代の日本グランプリ出場マシンの模擬レース、ガレージセールも行われるなど、ヒストリックカーファンにとっては見逃せない内容のお祭りイベントだった。
知っての通りツインリンク茂木は、インディカートで馴染み深いオーバルコースに加え、全長4kmを越える国際格式のロードコースが組み合わせられた、日本を代表する最新の本格的サーキットである。このヒストリックカーイベントが開催された98年はサーキットが完成して間もない時期のため本格的なレースイベントの回数も少なかったが、現在ではグランドツーリングカー選手権(JGTC)や日本ツーリングカー選手権(JTCC)、さらにフォーミュラニッポン、スーパー耐久ラウンド、そしてインディカートシリーズのアジア戦が行われているなど、有名レースの開催が年々増加している人気のサーキットだ。
すでにご存じの方も多いだろうが、このイベントが行われた時期は我が47GTが参戦するマイスターカップのシリーズに、ツインリンク茂木が追加されるという噂がチーム関係者の間で広がっていた。しかも聞くところによれば、ディアブロやダッチバイパー、NSXにスープラなどが顔を揃えるグランドツーリングカー選手権(JGTC)の前座レースとして、マイスターカップが組み込まれるという話しだった。もちろん、そうしたビックレースと平行してマイスターカップが行われるというのは、我がチームならずとも、他のチームも魅力を抱いていたことは確かだった。
そのためこの日に開催されたヒストリックカーイベントは、我がチームにとって単なるお祭りごとに終わるはずがない。当日は、日本グランプリに出場した歴代レーシングカーのデモレースに参加することになっていたが、それはそれ。本当の心のうちを話せば、ツインリンク茂木のコースレイアウトに対して47GTが何処まで通用するのか、そのことに強い興味を抱いていた。これまでレースの舞台となっていた筑波サーキットに比べ、ストレートがより長いことやコーナーにおけるカントのきつさに違いがあること、さらにはアベレージスピードが数段高いことなど気になる要素がいくつもみられる。
したがって筑波サーキットでセッティングを煮詰めてきた47GTが、どのレベルの戦闘力を見せてくれるのかは、もちろん知る由がなかった。未知の領域だったわけである。
もっとも、この翌年の99年マイスターカップのシリーズには、ツインリンク茂木におけるレースは結局はずされたが、この日に走った模擬レースの経験は決して無駄なものにはならなかった。筑波サーキットでは問題にならなかったセッティングの重要性を初め、今後の改良が必要となりそうな部分などが明確化することができた。つまり、我がチームとしてはメリットが大きかったといってもいいだろう。
たとえば、とくに改良を必要としていたのはギア比の問題だ。ツインリンク茂木のコースでいえば、やはりストレートでそのことに直面する。筑波サーキットでは最良のギア比ではあったが、この大型サーキットが相手ともなると、トップギア時においてエンジンが吹けきってしまう。具体的に話せば、ストレートエンドの300m手前あたりで、すでにレブリミットの8500rpmを極めてしまい、それ以降はアクセルを踏めずパーシャル状態を維持するしかなかった。
でも、各ギアの組み合わせは良好である。コーナー間がそれほど長くはないストレートで結ばれているツインリンク茂木のコースは、その部分では筑波サーキットに似通っているため、ギアのつながりには気になるようなところがない。コーナーリング中のエンジン回転数にしろ、またストレートにおいてもロータスツインカムのポテンシャルを充分に活かせる加速が発揮されていた。すなわちインフィールドにおける加速を見る限りでは、かなりの戦闘力を47GTに対して期待しても無理はない内容である。
しかし欲を言わせてもらえば、サスペンションについては柔軟な感が目立ってしまった。とくに気になったのはストレートエンドにおける超高速域からのブレーキング時。ツインリンク茂木のホームストレートと、裏のストレートがその場面にあたる。そこでは、筑波サーキットではまず必要のない強烈なブレーキングが必要とされ、フロントへの荷重移動が予想外に多くなっていた。つまり、ブレーキングと同時にフロントへ荷重が移動しすぎてしまい、リアタイヤの接地性が奪われやすい状態であり、クルマは安定感が不足気味の制動姿勢をつくってしまうわけだ。
サスペンションに対するその柔軟な印象はコーナーリング時にも確かめられ、安定感については満点を与えられる内容ではなかった。というのも、小さめなコーナーが連続しているように見えるツインリンク茂木のインフィールドは意外にもスピード域が高く、GT47のボディを必要以上にロールさせてしまいタイヤの接地状態を悪化させてしまうのである。実際に4速フルスロットルで駆け抜けるコーナーでは、これまでにないシビアで正確なドライビングが要求されたほどだ。
とはいえ、こうした気になる部分はあくまでも欲を言った場合の話しだ。なにしろ歴代の日本グランプリマシーンが揃った模擬レースで見せる47GTのポテンシャルは、他のライバルを圧倒する次元の高さだった。模擬レースにはGT40やシェブロン、ポルシェ917K、レーシングエランなどが出場していたが、47GTはつねにレースをリードする速さを見せつけていた。
ただ、天敵はいた。前にも述べたポルシェ917Kがその相手。大排気量エンジンにものを言わせ、ストレートにおいてアドバンテージを稼ぎだし他の追従にガードを張っていた。もちろん、47GTとしては楽ではない。筑波サーキットに合わせたギア比のため、ストレートでは100パーセントのポテンシャルが発揮できず、悔しいが917Kに後ろ姿を見せつけることが楽ではない。47GTとして勝負に挑めるのはコーナーが連続するインフィールドステージ。ライトウエイトのシャシーを活かして、コーナーにおいてリードを奪い返すような展開となった。
結果は2番手となってしまったが、チームとしても満足感は高かった。充分に47GTの速さを、この模擬レースで確信したためだ。というのは、レースリザルトの下段に示されたベストラップの覧には、他のライバルを凌ぐ47GTの叩きだしたタイムが残されていた。(2’09.580)それは紛れもなく優れたポテンシャルの裏付け。サスペンションやギア比に完全ではないハンディーを抱えながらも、最速ラップを残せたということに喜びを隠せなかった。我がチームの歴史に、新たな記録が刻まれたのだから。