Chapter.20 |
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〜誓い〜 ついに記録は塗り替えられ56秒台に突入!
忘れられない約束を果たす記念日となった |
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11月3日、午前6時00分。マイスターカップ最終戦となるその日、空がまだ薄暗 い早朝の筑波サーキットは寒気に包まれ、車載の温度計も2度を示す冷え込みをみせ た。
知る人も多いだろうが、空気が冷えた日のマシンは最高性能を得やすい。空気の密度が高く、その分燃料も増やせる。したがってエンジンは一段とパワフルさを増す。熱ダレによる性能のロスも少ない。それゆえに最終戦のこの季節では、たびたびコースレコードが塗り替えられることも珍しくない。
だから…。顔に突き刺す冷気、足裏に染みる地面の冷え込み。その冷気にふれたとき、僕はある決意を固めた。今年のレースシーズンが終わるまでに果たしておきたかった「約束」、それをこの最終戦の予選で実行することを。
もっとも約束を実行する上で、47GTのセットアップも思わしい段階まで煮詰まってきていた。まずは、コーナーにおける過大なロール量の改善が進んだ。前回、フロントのワイドトレッド化によってロール量が増したことで、マシンのコントロール性がジャジャ馬の傾向になった。たとえば、コーナー出口ではリアが派手に暴れ出すなど、安定したタイムを刻むのに相応しくない特性に変わってしまった。
そこで足回りに対しての改良を実施。スプリングのバネレートを15%引き上げ、激しい挙動変化に対応。結果は狙いとおりだった。レースを控えた事前テストでは、とくに最終コーナーにおけるリアの滑り出しがマイルドになり、これまで以上に操りやすい特性を得ている。コーナーリングスピードも限界域が高まり、より積極的なコーナー進入を可能にした。
また以前から問題となっていた、フロントの穏やかすぎる応答性能についても、ほどよい改善の兆しがみえてきた。これについてはワイドトレッド化で減少したロール量に合わせ、アライメントやダンパー・セッティングを最良にしたことが主な変更である。結果的にコーナーでの踏ん張りに奥行き感が増す効果を得た。つまり、47GTがあまり得意とはしていなかったタイトコーナーの走りにも、少し戦闘力が高まり進化が得られたということである。
そして改良のメインメニューは、なんといっても搭載エンジン。間に合わせで搭載していたBDG型をマウントから取り外し、本来のパワー・ソースであるYB型エンジンを今回は換装。自己ベスト、57秒412を出した時に積んでいた、ハイパワーエンジンに戻したのである。これでパワーは本来の性能に蘇り、さらに今回は、ワイドトレッド化で限界域も高まったコーナーリング性能を47GTは得たことになる。
それだけに、である。暴投で話した「約束」、それを実行すべき時は今!
そう、僕は心の中で意識をした。
そして、8時23分。待ちかねた公式予選のコースインゲートが開かれた。早い時間帯の予選とあって、幸い路面も冷えた状態のまま。タイヤのグリップがなかなか上がらないことを気にしつつ、まずは1回目のアタックを開始。走りは8割。マシンのコンディションを探りつつのアタックである。ところが全力ではないその走りでも、タイムは57秒前半。2回目については、軽々と自己ベストを上回る57秒2をも記録。いつになく好調な滑り出しに確信を抱き、いよいよ限界ぎりぎりのアタックに挑んだ。
もちろん心境としては、一杯いっぱいまで攻め込んだ。コーナー出口ではコースからハミ出す寸前。ターンインはグリップ限界まで車速を引き上げ、これ以上はない走りを心掛けた。チャンスは1ラップ。1分に満たないその僅かな時間に、全てをかけた。そして、車載モニター出されたタイムは、56秒8!ついに念願の56秒台をマーク。予選は2番手に止まったが、その自己ベスト更新は、仕事をやり遂げた充実感に酔いしれる瞬間となった。
「やりましたね、最高でした!」、おそらく、そう喜んでくれたことだろう。僕が約束をした相手、その人は先代の社長だ。56秒台のタイムが記録されるこの日を、他の誰よりも強く待ち望んでいたひとりだ。56秒台は、先代社長との間で生前に定めた、目標でもあり約束でもあった。現在のマイスターでは、56秒台は必須。そのポテンシャルがなければトップを奪えない状況である。それだけに56秒台を47GTがクリアしていないことは、悔しさとしてお互いの共感となっていた。だからこそ、56秒台の記録更新は何よりも嬉しい。予選順位をヌキにして、素直に喜べる瞬間だった。
しかしながら、今回は最終戦。シリーズポイントで#12のジネッタと肩を並べるだけに、気を良くしてばかりもいられない。どちらか勝った方がチャンピオンとなる大切な1戦だ。つまりガチンコ勝負。それだけに、予選は#12にポールポジションを譲われたが、決勝では先行を許すわけにはいかない。予選結果からみられる47GTとのビハインドはコンマ8秒だが、できれば、つねに射程距離内に相手をおき、すきあらばバトルを仕掛ける!
予定でいえば、相手のタイヤが温まり着る前の2、3ラップ目。そこがチャンスと考えていた。
ところが、チャンスは意外にはやく、決勝スタートのときに訪れた。#12ジネッタは、シグナルが青に変わる寸前にクラッチがミートしてしまい、フライングの状態となった。その思わぬ自体に戸惑っている間に、シグナルは青が点灯。#12はスタートダッシュに一瞬の遅れを作ったのだ。ロケットダッシュの決まった47GTは、すかさず#12の行く手をふさぐブロックラインを確保。オープニングラップをトップで駆け抜けることになった。
もっとも、その後の展開がラクではない。前述したとおり、#12はコンマ8秒ほどベストラップが早い。すなわちレース展開は、終止テール・ツー・ノーズ。一瞬のミスで順位が入れ替わってしまう接近戦となった。まして、今回はタイヤのグリップ低下が通常よりも激しく、それがレースを優位に運べない状況をつくっていた。たとえば、レースの序盤あたりからは思うようなグリップを稼げず、ペースダウンを余儀無くされたため、コーナーではサイドバイサイドに持ち込まれるシーンが多発。グリップの低下がより激しさを増したレース後半では、ブロック走行の限界も感じはじめてしまう、辛い展開に追い込まれたほど。
しかし、「引いたら負ける」。そのマインドを維持しつづけることで、今回は勝利の女神を見方につけた。最終ラップまで、ぴったりと背後に付ける#12を、一度も先行させることはなかった。一瞬も気を緩めることのできない接近戦は、つねに47GTがトップを守りきりチェッカーを受けたのである。
とはいえ、決して満足したわけではない。見ごたえのあるレースを行えたことに満足はしたが、自己ベストが他にリードされている限りは納得できない。目指すところは、55秒台。完璧にマイスターカップを制覇するまでは、47GTのチャレンジが終わることはないだろう。立ち向ってくる、ライバルが存在する限りは…。
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